読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

特に意味のない、ただ好きな小説5冊の紹介

特に理由はないのだけどなんとなく書きたくなったので、今まで読んだ小説の中からわりとお気に入りのものを挙げていきます。

好きな小説たち

ざっくり言うと、好きなジャンルはSF、戦記物、とかになるのか?というよりもジャンル分けってよくわからないですが、いわゆる推理小説、ホラーはあまり読まないのは確かです。

伊藤計劃『ハーモニー』

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

 この前映画を観てきた小説。もともとこの小説を知ったのは、「ユリイカ」の「魔法少女まどか☆マギカ」特集でハーモニーとまどマギを対比させた記事を読んだことがきっかけでした。あらすじが書いている分けでもなんでもなかったですが、「高度医療社会」「管理社会」とかのワードがひっかかって読み始めたことを覚えています。(この時は伊藤計劃という作家も知らなかった)

読んだ時の感想映画観た時の感想を書いてるくらい、気に入っている物語です。(ストーリーが気に入っている、というよりは、「装置」としての小説、という部分が気に入っています)

 

内海文三『裸者と裸者』ほか応化戦争記シリーズ

裸者と裸者(上) 孤児部隊の世界永久戦争<〈応化クロニクル〉> (角川文庫)

裸者と裸者(上) 孤児部隊の世界永久戦争<〈応化クロニクル〉> (角川文庫)

 

 いまのところ一番好きな小説です。架空未来の日本で内戦が起こり、そこでどうにか生き延びていく孤児たちが主人公の物語です。主に東日本が舞台となり「仙台軍」とか「宇都宮軍」「信州軍」などの群雄割拠の時代に、政治的な駆け引きや武力衝突などの最前線に放り込まれる孤児たちの話です。

戦争を描く小説なだけあって、暴力や虐殺、レイプなどの描写もありますし、作品を通して性や人種・民族の問題も大きく取り扱われます。(「外国人排除」を掲げる武装組織がいたり、男にレイプされたことで自分のジェンダーアイデンティティがどこにあるのかわからなくなった男性がいたり)
ですが、わりと重いテーマを描いた作品にもかかわらず、妙な明るさとテンポの良さがあります。一文一文が短くテンポよく進み、時折挟まれる孤児たちの陽気な会話。

「チャンホが寝込んじゃった。熱が三十九度もあるの」ひなびが言った。
「感染症かなにか?」姉妹は訊いた。
「小燕派の報復を見たのよ。たぶんそのせいだと思う」
「ああ」姉妹はせつない声をもらした。「なんてまともなやつだ。抱きしめてやりたい」

内海文三『裸者と裸者(下) 邪悪な許しがたい異端の』 第6章

このシリーズは三部作で、「裸者と裸者」「愚者と愚者」「覇者と覇者」それぞれ上下巻で出版されるはずだったが、最後の「覇者と覇者」下巻の真ん中あたりで未完となっている。作者の内海文三氏が急逝されたからです。結末が永久に見れなくなったことは残念ですが、それでもこの作品は唯一無二の素晴らしさを持っています。

「そいつのことをさっさとわすれるために、そう式をやるのさ」アイコが非難する口調で言った。
「忘れる。頭をあげる。前進する」椿子が快活に言った。

内海文三『覇者と覇者 歓喜、慙愧、紙吹雪』 上 第6章

 

中島らも『ガダラの豚』

ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)

ガダラの豚〈1〉 (集英社文庫)

 

 中島らもの長編小説です。文庫本は全3巻。民俗学教授の主人公が、とある新興宗教の教祖が起こす超常現象とかを解明していく、というのがざっくりストーリーです。こう書くと仲間由紀恵と阿部寛の『TRICK』かな?という感じですが、どちらかというとメインはその後にある「呪い」に立ち向かう部分。アフリカのとある集落に現れた「呪術家」との戦いが本筋になっていきます。

この物語ですごいのは、登場人物同士の会話。民俗学教授やアフリカの集落の長、呪術家、神父など様々な人間が出てきますが、それぞれの主義思想がとても深く描写されていて、それぞれの登場人物がそれぞれ実在の人間のように見えてきます。「本当にこれを一人の人間が書いたのか?」と疑いたくなるほどです。特に「神父」と「呪術家」の会話など、小説ではなく専門家同士の対談を読んでいる気分になってきます。
それを支えるかのごとく、本の最後には大量の参考文献リスト。ひとつの小説で参考文献がここまで記載されている本を他に知りません。

 

シュペルヴィエル 永田千奈訳『海に住む少女』

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

 

 フランスの作家です(生まれはウルグアイらしいけど)。一部売り文句としては「フランス版宮沢賢治」とか呼ばれてたりもします。

この本は短編集で、20ページほどの短い話が10作掲載されています。どれも少し不思議な感じで、けど少し不気味で、なんとも言えない気分になります。この本に出会ったきっかけは覚えてませんが、たぶん本屋でたまたま目に入ってタイトル買いしてしまったんだと思います。けどずっと手放したくないとなぜか思ってしまう本です。たぶんフランス文学は訳者の文体で印象がすごく変わってくると思う。

沖合いで、手すりにひじをつき、物思いにふけるそこの水兵さん、夜の闇のなかで愛するひとの顔をじっと思い浮かべるのも、ほどほどにしておいてくださいな。あなたのそんな思いから、とくに何もないはずの場所に、まったく人間と同じ感性をもちながら、生きるも死ぬもままならず、愛することもできず、それでも、生き、愛し、今にも死んでしまいそうであるかのように苦しむ存在が、生まれてしまうかもしれないのです。

シュペルヴィエル 永田千奈訳『海に住む少女』光文社古典新訳文庫

 

サン=テグジュペリ 堀口大學訳『人間の土地』

人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)

 

 上の本と同じくフランスの作者です。『星の王子さま』を書いた超有名な人ですし、文庫本のカバーイラストを宮崎駿が描いていることもあって、知っている人も多い本かもしれません。

作者のサン=テグジュペリはもともと飛行機乗りで、海を越えた郵便配達などを行っていました(第二次世界大戦中、偵察機で基地を出発したまま帰還せず、というのがプロフィールの最後になっています)。その作者が不時着遭難したときの思いや、出発したまま帰ってこなかった同僚のことなどを綴った、いわば自伝的な作品です。

フランス文学をそんなに多く読んだわけでもないのだけど、「一文が長い」のが特徴なのではないかと思っています。上の『海に住む少女』もわりと一文が長かったですし、この『人間の土地』も結構長い。それと、この本を訳している堀口大學という方がもともと詩人であることで、まるで一文一文が詩みたいな雰囲気を持っています。

たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが、自分たちの役割を認識したとき、はじめてぼくらは、幸福になりうる、そのときはじめて、ぼくらは平和に生き、平和に死ぬことができる、なぜかというに、生命に意味を与えるものは、また死にも意味を与えるはずだから。

サン=テグジュペリ 堀口大學訳『人間の土地』新潮文庫 8.人間

この本を読むのにはとても長い時間がかかりました。そんなに長い本ではありません。文字は比較的小さめですが、230ページ程度、1冊で終わりです。ですが、一文一文が詩のような強度を持っているため、それを飲み込みながら読んでいくと、めちゃくちゃ時間がかかるのです。けどそれが苦にならないくらい、一文をとても大切に読みたくなる、一気に読むのがもったいないと思える本です。

<ぼくは断言する、ぼくがしたことは、どんな動物もなしえなかったはずだ>この言葉、ぼくが知るかぎりの最も高貴なこの言葉

上掲書 2.僚友