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修士論文「G.B.ピラネージのエッチング作品の構成に関する研究 −絵画空間の図式化を通して−」

つくった > 建築

2013年度 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士論文。画像は全て『Luigi Ficacci "Piranesi (Giovanni Battista): The Complete Etchings/ Gesamtkatalog Der Radierungen/ Catalogue Raisonne Des Eaux-fortes" Taschen America Llc, c2000』に拠る。

→PDF(940KB)

ピラネージとは何者か

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ジョバンニ・バッティスタ・ピラネージ(Giovanni Battista Piranesi, 1720-1778)は 18 世紀のローマで名声を博した銅版画家としてその名を知られている。しかし、もともと建築 家を目指してローマを訪れたとされるほか、自らの銅版画作品にしばしば「建築家(ARCHITETTO)」と署名するなど、彼の活動は建築と密接な関係にあったと考えられる。 本研究の目的は、ピラネージの銅版画(エッチング)作品についての分析を行うことで、彼の建築への関わり方に関する新たな知見を得ることである。

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彼の描くエッチング作品において、イメージは直接描かれるのでなく、例えばそこに貼付けられたように描かれた紙片という媒体を通して描かれる。それによって、そのイメージが現実のものなのか架空のものなのか、さらにはその作品に対するピラネージ自身の制作が介在する位相までもが変化してくるのである。

本研究ではそうした表現形式に着目してピラネージのエッチング作品1011点を分析することで、様々に異なる絵画的主題に依ることのない包括的な考察を行った。

エッチング作品の図式化

分析の方法として、各作品に描かれる要素を「あたかもそこに物質があるかのように描かれているか、二次元のグラフィックとして描かれているか」「描かれる主題か、主題が描かれる支持体か」という二つの視点で分類し、それぞれの要素の関係性を図式化した。その図式化を通して、要素の重層関係や包含関係に着目した評価を行った。 

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図式化による分析の結果、ピラネージのエッチング作品の表現形式は、彼の活動の中期においていくつかのパターンに分岐していき、段階的に複雑になっていったことがわかった。

ピラネージにとっての建築としてのエッチング作品

さらにその表現形式のありよう(活動中期に幅広く分岐)は、彼が当時の建築論争の中で述べていた建築観と一致する部分が多く見られる。彼は活動中期における著作『建築に関する所感』の中で、建築に追い求めるべき単一の起源など存在せず、ある様式に対して、その時代その時代の建築家たちが「気まぐれな装飾」を行うことで、新しい建築が生まれてくると述べた。ある形式にさらに装飾を重ねて新しい形式にする、というかたちは、図式化より見えた彼のエッチング作品そのものの構成にも見て取れる。彼は自らの建築観を言説において示し、エッチング作品によってそれを解説しただけでなく、制作するエッチング作品そのものに、彼の主張する建築観の体現としての意味を与えていったのではないかと考えられる。その意味で、彼は建築を描いていただけではなく、真に建築家であったと言えるのではないだろうか。

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